データ構造とアルゴリズム
第二回
(2012年9月28日)
アルゴリズムの表現と評価
http://www.sw.it.aoyama.ac.jp/2012/DA/lecture2.html
Martin J. Dürst
© 2008-12 Martin
J. Dürst 青山学院大学
目次
- 前回のまとめ・宿題
- アルゴリズムの表現方法
- プログラム言語 Ruby
- アルゴリズムの評価
前回のまとめ
- 授業の位置づけと進め方
- アルゴリズムとデータ構造の魅力
- データ構造の概要 (例: 連結リスト)
- アルゴリズムの概要 (例: 線形探索、2分探索)
前回の宿題 1: 膨大なデータ
提出: 来週の木曜日 (9月27日) 19時00分締切; O 棟
529号室の前の箱に提出; A4 一枚 (両面可) 厳守
(それぞれの問題で、想定の根拠となる理由、参考にした文献など必ず明記のこと)
- 東京証券取引所の第一部の取引で、一株式会社の株が営業時間内に平均で
1分に一回売買されている想定のもと、合計で年間に何項目ぐらいのデータが集まるかを、計算しなさい。
- Google (又は明記の上で他のサーチエンジン)
が対応しているウェブページの数と平均のページあたりのリンク数を調べ、おおよその合計のリンク数を計算しなさい。
- 問題 1 や 2
の結果よりも大きくて実際に計算機で扱えそうなデータ項目の量を考え、説明しなさい
(他人と同じものの場合には減点の対象)。
前回の宿題 2: アルゴリズムの表現方法
別紙「アルゴリズムの表現方法」のアルゴリズムの表現方法をよく見て、それぞれの方法の利点と欠点を考えなさい。
(提出不要)
アルゴリズムの表現方法
- アルゴリズムは抽象的な現象
- 表現方法が必要
- 主な表現方法:
文書
原理: アルゴリズムを視線言語で説明
利点: 素人も含め人間に分かりやすい・書きやすい
欠点:
- 文書の曖昧さ
- 正確な表現の限界
- 構造が不明
- 自然言語に依存
図
例: 流れ図など
利点: 視覚的な表現
欠点:
- 作成の手間
- データ交換の困難
- 構造化プログラミングとの隔たり
(構造化プログラミング (structured programming): goto
(プログラム内の任意のところへのジャンプ)
の代わり、入れ子の枝分れ、繰返しなどの使用)
疑似コード
(pseudocode)
原理:
自然言語を一部混ぜたプログラム言語に近い記述
利点:
- 自然言語とプログラムの中間
- アルゴリズムの本質に注目が可能
- 構造化プログラミングと連結
欠点:
プログラム言語
利点:
欠点:
- 種類が多い
- 必要以上に細かい
- アルゴリズムの本質と違う
Ruby プログラム言語
- 日本発 (まつもと ゆきひろが 1993 年から開発)
- 2000年から欧米でも人気を集める
- 2004年から Ruby on Rails
で更に注目
- 完全なオブジェクト指向
- 手軽なスクリプト言語
- 初心者にやさしいが、上級者も大満足
- 卒論などで使用、実装に貢献 (国際化)
前回の宿題 3: Ruby のインストール
自分のノートパソコン (又は自宅のパソコン) に Ruby
をインストール
インストール方法は主に二つ:
確認方法: Start Command Prompt with Ruby 又は Cygwin Bash Shell/Cygwin
Terminal にて ruby -v
を実行
インストールできない場合、次回授業の前日までに要相談
アルゴリズム表現のための Ruby
- 簡潔な記法
- 変数の宣言が不要
- 型の互換性はメソッドで決まる (いわゆる duck
typing)
- 「動く疑似コード」
- プロファイラなど環境の充実
最初の Ruby の例
線形探索と二分探索: 2search.rb
実行:
- インストール確認から cd
でダウンロード場所へ移動
ruby 2search.rb
Ruby の記法の基本
#
から開業まではコメント
(授業では #
はアルゴリズムへのコメント、##
は Ruby
についてのコメント)
- 行末に
;
(セミコロン) が不要
if
/while
などの条件とメソッド
(関数) 呼び出しの一部で ()
が不要
- メソッド (関数) は
def
で定義
class
/def
/if
/while
/do
などに必ず end
が必要 ({}
はなし)
アルゴリズムの評価の概要
主な評価基準:
評価のときに必要な情報:
実行時間の比較: 具体から抽象へ
- 実行時間の測定
- ステップの数え上げ
- 最悪の場合などのステップの数え上げ
- 漸近記号
(簡単な式で実行時間の動向を表現)
実行時間の比較: 計測
- 利点:
(条件が合えば) 正確な結果
- 問題点
- ハードウェアによって結果が違う
- 実装の詳細によって結果が違う
- 実行するたびに結果が少し違う
- 実装が前提
⇒ もっと抽象的な比較方法が必要
実行時間の比較: ステップの数え上げ
(ステップ:
一定時間で計算可能な部分、例えば演算、比較、メモリ参照など)
- 利点
ハードウェア依存無し
- 問題点
- 実装によってステップの数が違う
- ステップの数え方は様々
- 入力項目の数や種類によってステップ数が違う
⇒ もっと抽象的な比較方法が必要
漸近的な増加の例
(asymptotic growth)
ステップの数
n (データ項目の数) |
1 |
10 |
100 |
1,000 |
10,000 |
100,000 |
1,000,000 |
線形探索 |
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2分探索 |
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ステップの数を式で表すとどうなる
データの個数が多くなると式のどの項が重くなる
漸近的な増加の考え方
- アルゴリズムの計算時間やステップ数は入力項目の数にどのように依存
- 依存を関数で表す: f(入力項目数)
- 関数の比較に使う原則:
- 入力項目数が少ないときの差を無視
- 一定時間の差は無視 (例えば初期化の差)
- 定数倍の差を無視 (ハードの進化で対応可能)
⇒
ハードウェア、実装の詳細、ステップの数え方に依存しない
⇒ アルゴリズムの本質的な差が表せる
漸近記号: O の定義
("big Oh" notation)
漸近的増加の上界を簡単な式で表す記法
- ある関数 f(n)
- の漸近的上界 (asymtotic upper bound) を表す
- もう一つの関数 g (n) があるときに
- f (n) = O(g (n))
と書く
- その条件として、
- 全ての n > n0 において、0
≤ f (n) ≤ cg
(n) となる
- 正の定数 n0 と c
が存在する
漸近記号の具体例: 探索アルゴリズムの比較
- 線形探索のステップ数は an + b
⇒ 線形探索は O(n)
- 2文探索のステップ数は a log2 n
+ b ⇒ 線形探索は O(log n)
漸近記号の具体例: ステップ数の比較
それぞれ二つのアルゴリズムのステップ数で、漸近的な増加が大きい方はどちらか
100n |
n2 |
1.1n |
n10 |
5 log2 n |
10 log10 n |
20n |
n! |
1000n |
n |
まとめ
- アルゴリズムの表現方法は様々
- この授業では主に「動く疑似コード」の Ruby を使用
- アルゴリズムの評価の中心は実行時間の漸近的な増加
(計算量)
- 漸近的な増加の上界は O 記法で表す
宿題
(提出不要)
Ruby を使って探索アルゴリズムをさらに比較